2019年03月12日

映画「グリーンブック」はなぜオスカーに?

こんばんは。

  今年も映画の祭典アカデミー賞は盛り上がりました。

  日本からは、外国語映画賞に是枝監督の「万引き家族」、長編アニメ映画賞に細田監督の「ミライの未来」がノミネートされましたが、残念ながら受賞を逃しました。

  今年のキーワードは、「ダイバーシティ」だそうです。主な受賞の内容を見てみましょう。作品賞「グリーンブック」、監督賞アルフォンソ・キュアン監督「ROMA/ローマ」、主演男優賞は「ボヘミアン・ラプソディ」のラミ・マレック、主演女優賞は「女王陛下のお気に入り」のオリヴィア・コールマン、除染男優賞は「グリーンブック」のマハーシャラ・アリ、助演女優賞は「ビール・ストリートの恋人たち」のレジーナ・キング、脚本賞は「グリーンブック」のニック・バレロンガ、ブライアン・カリー、ピーター・ファレリーでした。

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(主演男優賞受賞ラミ・マレック mdpr.com)

   「ダイバーシティ」とは、多様性のことですが、今年のアカデミー賞は確かに多様性にあふれています。まず、監督賞と外国語映画城を受賞した「ROMA/ローマ」は、メキシコ映画であり、その公開は映画館ではなくNetflixでの公開でした。フレディ・マーキュリーを熱演したラミ・マリックはエジプト系のアメリカ人。助演男優賞と助演女優賞は黒人俳優。衣装デザイン賞を受賞した「ブラックパンサー」のスタッフたちはアフリカ系のアメリカ人で初の受賞でした。

  聴けば、2015年と2016年、主演助演の俳優ノミネートはすべて白人だったそうで、アカデミー賞には数々の批判が輸せられていたと言います。そうした批判もまったく影響がなかったわけではないのかもしれませんが、今年のアカデミー賞の多様性は映画の素晴らしさをより輝かせてくれることに間違いありません。今、アメリカの印象はトランプ大統領のおかげで、反知性主義と超保守的思想に覆われており、今回のアカデミー賞に現れた多様性は、それに対する言葉なき批判となっているのではないでしょうか。

  さて、主演男優賞や音響編集賞などを受賞した「ボヘミアン・ラプソディ」の魅力は、先日このブログでもご紹介しましたが、今年のアカデミー賞の発表を見て、さっそく公開されたばかりの「グリーンブック」を見てきました。今回は、映画「グリーンブック」の魅力をご紹介します。

【アメリカのトラウマ】

  この映画の題名となっている「グリーンブック」とは、アメリカで発売されていた「ホテル・宿泊所」の案内本の名前です。この本は、「グリーンによる黒人ドライバーのためのガイドブック」と呼ばれているように、郵便配達人だったグリーンさんが創刊した黒人専用の旅行ガイドブックなのです。

  アメリカ、特に南部では1960年代まで人種差別はあたりまえのことでした。NASAの初めての宇宙有人飛行へのスタッフを描いた映画「ドリーム」では、NASAに採用された天才的な黒人数学女子が建物敷地内に黒人用のトイレが一つしかないために、毎日トイレに行くたびに長時間の不在を強いられていた現実が描かれていますが、アメリカではホテルやレストラン、お店やトイレまですべてが白人用と黒人用に区別されていたのです。特にアメリカ南部では、専用施設は当たり前の事であり、黒人は専用の施設しか使用できなかったのです。

  「グリーンブック」とは、アメリカを車で旅行しようとする黒人のためにできた黒人専用の宿泊施設やレストランを記載したガイドブックの名前なのです。

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(黒人向けガイド「グリーンブック」 映画より)

  というと、この映画は人種差別を非難する映画なのかと思う人もいるかもしれません。この映画は実話をもとにしていますが、その背景となるのは1962年であり、その頃のアメリカの文化や風俗を忠実に再現しているに過ぎません。むしろこの映画が描こうとしているのは、生い立ちも環境も、人柄もまったく異なる二人のアメリカ人が、旅を通じて無二の友情をはぐくんでいく人間ドラマなのです。たまたま二人のアメリカ人が、片やイタリア系の白人、片やアフリカ系の黒人であるというシチュエーションが時代を背景として感動の物語を生み出すのです。

  確かにこの映画は、人種差別を非難する映画ではありません。その脚本の素晴らしさで二人の異なるアメリカ人が旅を通じて本当の友情をはぐくんでいくプロセスは、涙あり笑いありの感動を我々にもたらしてくれます。しかし、全体としては感動作ではありながらも映画としての派手さがまったくありません。この映画がアカデミー賞の作品賞を受賞したのは、近代のアメリカが抱える社会的な問題を映画の背景としたからに違いありません。

  先日ご紹介した橋爪大三郎氏と大澤真幸氏の対談「アメリカ」で、橋爪氏はアメリカを語るときに欠かしてはならないのは、アメリカ社会が抱える人種問題のトラウマだ、と語っていましたが、マルティン・ルーサー・キング氏の暗殺を持ち出すまでもなく、アメリカの人種問題はアメリカ人にとって避けることにできない歴史的な宿命であることに間違いありません。

  この映画は、その問題を1960年代の歴史的事実として描き出しているのです。

【「グリーンブック」の面白さ】

(映画情報)

・作品名:「グリーンブック」(2018年米・130分)

(原題:「Green Book」)

・スタッフ  監督:ピーター・ファレリー

       脚本:ニック・バレロンガ

          ブライアン・カリー

          ピーター・ファレリー

・キャスト  

  トニー・“リップ”・バレロンガ:ビゴ・モーテンセン

  ドクター・ドナルド・シャーリー:マハーシャラ・アリ

  ドロレス:リンダ・カーデリニ

  この映画のキャストとスタッフを見て何か気づきませんか。

  そのポイントは、「バレロンガ」という苗字です。映画の主人公であるトニー・“リップ”・バレロンガは、イタリア系移民のアメリカ人です。腕っぷしが強く、ニューヨークの高級クラブである「コパコパーナ」で用心棒を勤めています。ガラは悪いのですが、妻や子供を心から愛する正直者です。映画の中で、ドクター・シャーリーがあだ名の“リップ”のわけを尋ねます。トニー曰く、昔から口が良く回りデタラメをしゃべって相手を煙に巻くのが得意でそのあだ名がついた、そうです。シャーリーが嘘をつくのは良くない、というと、トニーは「俺はデタラメとは言ったが嘘とは言っていない。」「俺は嘘はつかない。」と答えます。その言葉通り、この映画のトニーは、正直な乱暴者なのです。

  映画では、シャーリーが「バレロンガ」という名前が呼びにくいので、紹介するときには「バレ」に縮めようと提案しますが、トニーは“リップ”か「バレロンガ」のどちらかだ、と苗字へのこだわりを口にします。

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(ドクター・シャーリーとトニー・リップ 映画より)

  今回、この作品はアカデミー賞で脚本賞を受賞していますが、脚本家の名前を見ると、ここにも「バレロンガ」が登場します。実は、脚本を書いたバレロンガ氏はこの映画の主役、トニー・“リップ”・バレロンガの実の息子なのです。この映画の魅力は、饒舌で世知に長けたある意味で正義感であるトニーと黒人でありながら一流ピアニストでありアメリカの黒人からは別世界の孤独な黒人シャーリーが生み出す様々なドラマと二人の会話です。

  シャーリーは、ホワイトハウスでピアノリサイタルを開いたこともあり、カーネギーホールの2階をアパートメントの代わりにするホール専属の超一流ピアニストです。もちろん、彼が奏でるピアノはスタインウェイであり、それ以外のピアノを弾くことはありません。彼は、黒人としてはすべての人に認められ、黒人からは阻害され、当然白人ではない自分のアイデンティティに常に悩んでいます。

  今回の映画は、実話をもとに構成されています。天才ピアニストであったシャーリーについては、映像も残っておりその人物像はかなり想像し易いと思いますが、主人公であるトニー・“リップ”・バレロンガの魅力は捕えることが難しいことは想像に難くありません。しかし、映画はトニーの家族たちを生き生きと描くことによって、トニーの人柄を語っていきます。そのことが可能となったのは、ひとえに脚本家として名を連ねた、もうひとりの「バレロンガ」のなせる業ではないでしょうか。

【南部の旅が創りだす二人の絆】

 (以下、ネタバレあり)

  さて、高級キャバレー「コパカーナ」の用心棒であるトニーは、その口八丁の語りと腕っぷしの強さでちょっとしたこずかい稼ぎにも困らず、それなりの信頼を得ながら職務をこなしていました。ところがある日、勤め先のクラブが改装工事に入ることとなり、突然の失業という憂き目にあいます。知り合いのレストランで大食い競争でホットドック食い50個に挑戦して賞金を手にしたり、大切な時計を死地に入れたりして日々の生活費を稼いでいましたが、そんなところに運転手の話が舞い込んできます。

  トニーは、採用面接を受けるために教えられた住所を訪れます。その場所は、なんとハイソな劇場である「カーネギーホール」。雇い主はドクター・シャーリーと教えられていたトニーは、てっきりボスは医者だと思い込んでいましたが、あにはからんや面接に現れたのは黒人の超一流ピアニストだったのです。仕事は、8週間にわたるアメカ南部へのコンサートツアーでの運転手兼世話係というオファーでした。トニーは、身の回りの世話を限定するとともに週休100ドルとのオファーを週休125ドルと逆提案します。

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(映画「グリ−ンブック」ポスター)

  採用の成否は、意外な連絡でした。トニー家の電話は夫婦の寝室に置いてあります。ある晩、トニーと妻のドロレスが寝ようとしているところに電話のベルが鳴り響きます。トニーが手を伸ばして電話に出ると、それはドクター・シャーリー本人からの電話でした。ドクターは、トニーに話をするわけでもなく、いきなり奥さんに電話を替わるように話をします。電話を替わったドロレスにドクターは、トニーが8週間家を留守にしても差し支えないかを問いました。ドロレスは複雑な表情をしながら、その申し出にイエスと答えました。

  こうして、8週間にわたるドクター・シャーリーとトニーの旅が始まったのです。

  二人は、トリオを組むベーシストとチェロリストの車と連なり、トニーの運転でニューヨークから南へと下っていきます。この度でのエピソードの連なりは、さすが脚本賞を受賞しただけのことはあり、傑作エピソードが我々の心に響いてきます。

  はじめの都市はペンジルバニア州のピッツバーグ。街は黒人に対してもまだまだ寛容です。トニーは休憩に立ち寄ったドライブインで翡翠のような美しい石が籠に入って売られているのを眺めていました。ふと気が付くと、足元の砂利に紛れてひとつの美しい石を見つけます。それは、明らかに売り物の籠から落ちたのですが、トニーはその石を拾うとちゃっかり自分のポケットに収めてしまいます。

  それを見ていたのは後ろの車に乗っていたチェロリストでした。チェロリストはトニーの振る舞いを見ていて、それをシャーリーに告げ口します。何食わぬ顔をして車に戻ったトニーに後部座席に乗っていたシャーリーが声を掛けます。「拾った石を返してきなさい。」トニーは拾ったものは俺のものだと抵抗しますが、ボスには逆らえず、嫌々ながら石を籠へと返しに行きます。そして、この石が伏線に・・・・。

  最初のコンサートを会場の開いた窓の外から観賞したトニーは、シャーリーの才能あふれるピアノの音に聞きほれて、その力量に心を動かされます。シャーリーは、2つの習慣をトニーに衣良視します。そのひとつは、コンサート会場に備えるピアノは、必ずスタインウェイであること。それは、ピアニストとしての矜持です。その才能を認めたトニーは、この矜持に納得します。

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(ドクター・シャーリートリオの名演 映画より)

  実話をもとにしたこの映画。実際のコンサートツワーは2年に及んだと言いますが、この映画では8週間となっています。しかし、実際には2年間で起きた二人のエピソードが映画では8週間に凝縮されています。

  この映画の面白さは、徐々に黒人差別が厳しい南部に深く入り込んでいく二人が、それぞれの場所で遭遇するエピソードの多彩さにあります。ケンタッキーフライドチキンをこよなく愛するトニーと一度もフライドチキンを食べたことのないシャーリー。運転手仲間と路上で賭け事を楽しむトニーに「賭けで儲けなければならないようなお金が必要だったら言ってくれれば支払う。」と言うシャーリー。「酒場では現金を見せないことだな。」と語るトニー。何度もすれ違いが起こり、そこから二人の友情はめばえていくのです。

  二人はクリスマス前の最後のコンサートを、黒人歌手ナット・キング・コールが袋叩きにあったというアラバマ州バーミンガムで迎えます。驚きと感動のラストはぜひ劇場でお楽しみください。また見たくなること間違いなしです。

  やっぱり映画は面白い。それでは皆さんお元気で、またお会いします。

📖今回も最後までお付き合いありがとうございます。
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posted by 人生楽しみ at 22:56| 東京 ☀| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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