2018年05月26日

知者が語る民主主義と資本主義

こんばんは。

  トランプ政権が発足してから1年以上が経過し、大統領は11月の中間選挙を見据えて大統領選挙での公約をちゃくちゃくと実現化していこうと考えているようです。TPPからの脱退、パリ協定からの脱退、アメリカ大使館のエルサレム移転、まさかと思ったメキシコとの国境への壁を構築も、わざわざモックアップを創るなど、渾身のパフォーマンスを見せています。

  北朝鮮との首脳会談をめぐる一連の騒動も自らの成果をアピールしようとする目論見が見え隠れしています。

  そのほとんどの政策は、EUから総スカンを食らっている感がありますが、そのEU内でも移民受け入れ問題に端を発したイギリスのEU離脱や各国内の右傾化(ポピュリズム)による政治の不安定化など、多くの課題を抱えてEUの連合維持に苦慮していることが分かります。

  社会主義国であった旧ソビエトが崩壊し、東西冷戦が終わりを告げてから、世の中は民主主義と資本主義という価値観を共有する社会規範で同じ方向に向くのではないか、少なくとも平和な世界が実現するのではないか、と期待されていました。

  ところが、テロや民族主義による平和への危機に加えて、アメリカやEUを中心とした「民主主義」や「資本主義」という価値観が疲弊感をかもしだし、ところどころでほころびを見せています。

  今週は、その危機感を4人の識者が語る本を読んでいました。

「世界の未来 ギャンブル化する民主主義、帝国化する資本主義」(エマニュエル・トッド、ピエール・ロザンヴァロン、ヴォルフガング・シュトレーク、ジェームズ・ホリフィールド著 朝日新書 2017年)

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(「世界の未来」朝日新書 amazon.co.jp)

【題名に惹かれて中を見ると】

  さて、この本は、朝日新聞主催のフォーラムで、「民主主義と資本主義の今」を語った講演とそれに付随するインタビュー記事で構成されています。語る識者は、4人。目玉は、なんといってもかのエマニュエル・トッド氏です。そのインタビューで語る言葉は、さすが。最新の著書の予告編ともいえるインタビューは、本当に面白く、中身の濃い論評です。

  そのポイントにひとつは、トランプ大統領の勝利やイギリスの国民投票によるEU離脱について、民主主義が正常に機能している結果だと看破していることです。氏は、最新作で人類の原点は「核家族」にあることに言及した、と語ります。

  現在の歴史では、我々ホモ・サピエンスは共同体という社会性を身に着けたことによって、人類として生き残ったと言われています。それは、のちに社会的な共同体から民衆による政治を生み出して民主主義へとつながっていくとされています。ところが、氏は、そうした常識をくつがえします。人類の最も原始的な共同体の形態は、核家族だというのです。

  核家族という単位での意思の表明や行動が、どう共同体での意志や行動につながるのか、そこは新たな著作を読んでみなければわかりませんが、核家族を原始とする意志の集まりが民主主義だとすれば、核家族とはもともと排他的な集団であり、自国の利益を最優先とする国民の意志も、民主主義が正常に機能している結果だとの語りも腑に落ちます。

  これまで、人口動向の実証的な研究により、数々の未来を予見し的中させてきた氏だからこそのインタビューに興味津々です。

  トッド氏は、相変わらずEUとドイツ嫌いですが、プーチン大統領の今回の選挙結果に対する分析や、今の安倍政権の政策に対する評論など、示唆に富む話が多く、現在の民主主義に対する独自の視点が語られてワンダーです。日本人は、もう少しものごとをルーズにとらえ、子づくりの機会を増やせばどうか、との提言には苦笑せざるを得ません。

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(75%の支持 プーチン大統領 sankei.com)

  今回は、4名の識者が民主主義と資本主義を語ります。

  二人目のピエール・ロザンヴァロン氏は、コレージュ・ド・フランセの政治史の教授です。

  氏は、世界中で起きている政治のポピュリズムに対して、民主主義の限界と変容を語っていきます。日本でも無党派層が増加し、たった58%の国民しか選挙に参加せず、少数の国民に選ばれた政党が政治を支配しています。投票率が低い理由は、国民が他に政治を任せられそうな人材が見当たらないから選挙に興味を持てないことだと言われます。

  確かに民主党政権時代の体たらくを見ると、まだしも自民党が政治を行っている方がマシとの気持ちはよくわかります。

  氏は、現代の民主主義が不満を持つ人々が選んだ一部を代表する政治家のために機能する仕組みになりつつあることに警鐘を鳴らします。それは、選挙に勝利した政治家が、自らの存在自体を全国民の意志の代表として動き出す危険をはらんでいるとも言います。

  残念ながら、この講演の内容は、もともとわかりにくいのか、翻訳が分かりにくいのか、私の理解力が不足しているのか、なぜかとても読みにくく、理解しづらい講演となっています。

  それはそれとして、選挙に勝利した政治家が自らの行動のすべてを肯定し、行政府をわがものとして政治を行うことの弊害は、氏の指摘の通りです。氏は、立法府や司法府が本来の監視機能やけん制機能を発揮して、行政府をしっかりと押さえていくことが民主主義をより発展させていくために必要だ、と説いています。我々市民も選挙で政治家を選ぶだけでは民主主義は機能しない。その言葉にはうなずくしかありません。

  日本の立法府である国会も、野党が政府や各省庁の揚げ足を取って政権交代を目論んでいますが、そのことが日本国家の脆弱化をまねくことに誰も危機感を感じていないようです。グローバル化した世界経済の中で、日本の果たすべき役割は何か。日本の持つリソースを世界で生かしていく方策は何か。少子化社会で国際的な技術力や交渉力を身に着ける教育とは何か。

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(加計学園問題に応える安倍総理 asahi.com)

  立法府にて議論する課題はたくさんあるはずです。

【資本主義経済と移民問題】

  フランス人の学者が二人続いたのちに登場するのは、ドイツの社会学者ヴォルフガング・シュトレーク氏です。氏は、産業革命以来続いてきた資本主義が、今、危機を迎えていると主張します。その要因は、資本主義の発展に伴ってボーダーレスとなったグローバル経済だというのです。

  グローバル経済の功罪は、世界を巡るホームレスマネーを生み、サブプライムローンに端を発したリーマンショックによる世界経済の大混乱を見てもその威力は明らかです。シュトレーク氏は、経済のグローバル化が国家間での経済格差を増大させ、デフォルトの危機までに至る弱者を生み出して資本主義を終焉に導いている、と指摘します。

  そして、その結果、経済的に窮地に陥っている国では、選挙によって自国ファーストとなる保護主義的なポピュリズム勢力が、選挙で勝利するようになったと分析します。

  なかなか面白かったのは、資本主義の延命という見立てです。

  資本主義は、熟成していくに従い破たんにむかっているが、世界は様々な手段でその延命を図ってきたというのが氏の主張です。経済世界が見えざる手によってマイナス方向に傾いた時、世界経済はインフレによって危機を回避しました。続いて、バブルが崩壊すると、各国は公的債務を動員してその危機を回避しました。

  さらに経済危機が進むと、各国は金融規制を緩和してサブップライムローンなどの民間債務を流通させることによって危機を回避します。その次に来たのは、日銀も旗を振る低金利を含めた量的緩和です。しかし、氏は、こうしたこれまでの危機回避の方策は、いずれも一時的な「時間稼ぎ」にした過ぎず、資本主義は崩壊に向かっている、というのです。

  インタビュアーは、氏に日本はその量的緩和をさらに続けていこうとしていますが、その先には何があるのですか。との質問を投げかけますが、氏は、「グットラックというしかないね。」と受け流します。氏の分析には、様々なヒントが含まれていますが、氏の処方は規律あるグローバリズムと各国家での秩序ある政策なのです。

  この本の最後の章では、「移民」がキーワードとなります。

  語ってくれるのは、アメリカサザンメソジスト大学の教授ジェームズ・ホリフィールド氏です。氏は、人の国家間での移動、特に移民研究での草分け的な研究者で、このインタビューもキーワードは、「移民」です。

  皆さんは、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)をご存知でしょうか。移民と難民は、異なるように思えますが、EUでイラク、イランでのISのテロによる移民は、自国の戦闘状態を避けるために国を出て、トルコを経由して続々とヨーロッパに移住しました。彼らは、「移民」と呼ばれますが、その実態は戦争による難民なのです。

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(ジュネーブのUNHCR本部 wikipediaより)

  私は、学生時代に国際法のゼミに入っており、課題として2つの論文を書きました。その一つは、フィンランドとソ連の共産化事件である「ファインランド化」。そして、もう一つが、当時国際的に問題となっていた「カンボジア難民」に対応した「難民条約」でした。当時の日本は、1954年に発効した難民条約を批准しておらず、そのことへの批判を含めてこの論文を書いたのです。

  「難民の地位に関する条約」は、私が社会人となった1981年に国会で承認され、公布後、1982年の11日から発効しました。当時、日本のUNHCR駐在事務所に取材して、日本の難民受け入れについて、熱く議論したことをよく覚えています。ゼミの先生が公開講義に私を指名してくれ、講堂で何十人もの学生の前で講義した時の緊張感は今でも忘れられません。

  ホリフィールド氏は、「移民」の問題を人口移動の一つと考えており、国家が移民を受け入れること自体は、労働人口の増加や多様な文化の形成などの面からプラス面も多く、カナダのように「移民」政策を前向きにとらえ、国の政策としてコントロールしていくことが大切であると説きます。

  移民を防ぐ「壁」について、集団と集団の距離を測るために「壁」は、昔から有益なものであったが、現代の社会では実質的な意味は亡くなった、と言います。トランプ大統領が公約したメキシコとの壁も、アメリカの非合法移民のほとんどは、入国した時には合法であったのにビザが切れたのちにも滞在している移民がほとんどであり、壁の意味は政治的なものでしかない、と語ります。

  そして、日本についても外国人労働者が大いに増加しており、労働人口や文化の面からも、日本における移民の意味を前向きに整理する時期が来ている、と言い、我々もこの問題を避けては通れないと改めて感じた次第です。


  この本は、「民主主義と資本主義」の原状を語るシンポジュムの講演とそれに付随するインタビューを再構成したものです。それぞれの識者は、ヨーロッパやEUを論議の中心として研究してきた人たちであり、朝日新聞がインタビューで「なんとか日本に結び付けよう」としている部分には、無理がありました。

  しかし、エマニュエル・トッド氏を筆頭にどの講演、インタビューにも現代社会がかかえるジレンマが色濃く取り上げられており、海に囲まれた日本でドメスティックに生きている我々も常に世界の感覚を持つことが重要であると痛感しました。

  中には、分かりにくい議論もありますが、皆さんもこの本で今、世界に起きていることの意味を改めて考えてみてはいかがでしょうか。ニュースを見る視点が増えること間違いなしです。

  今年は、気温の変動が激しい毎日が続きますが、どうぞお体にはご自愛ください。

  それでは皆さんお元気で、またお会いします。


📖今回も最後までお付き合いありがとうございます。
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posted by 人生楽しみ at 20:12| 東京 ☀| Comment(0) | 評論(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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