2018年04月30日

宮城谷昌光 歴史小説の秘密


こんにちは。

  先日、宮城谷昌光氏の三国志の完結後に執筆された「三国志外伝」をご紹介しましたが、その本と並んで積まれていた本があります。この本は、「三国志」と銘打たれていますが、読んでみると話題は「三国志」にとどまらず、宮城谷氏の中国歴史小説にちなむ講演と対談が収められた、宮城谷読本と言える本当に面白い本でした。

「三国志読本」(宮城谷昌光著 文春文庫 2017年)

【中国歴史小説解読】

  さて、宮城谷さんの中国古代を描いた歴史小説は、今や全集に至る膨大な物語が紡がれているわけですが、あんなに面白い小説をどうやればあれだけ執筆できるのか。

  読者としては、次から次へと語られる物語を時を忘れて楽しむことが出来、幸せな限りですが、これだけの良質な物語を書きつづるエネルギーはいったいどこから生まれてくるのか。この本を読むとその秘密の一端に触れることが出来ます。

  その面白さは、すでに目次を見るだけで予感することが出来ます。

(目 次)

T. 歴史の生まれる場所

 ロング・インタビュー「私の歴史小説」

U. 自作解説「三国志の世界」

『三国志』の沃野に挑む大歴史絵巻の豊穣なる世界・曹操と劉備、三国志の世界正史からみえてくる英雄たちの素顔・『三国志』の可能性歴史は多面体だからこそおもしろい・『三国志』歴史に何を学ぶのか構想十年、執筆十二年の大長編を終えて

V. 対談「歴史小説を語る」

水上勉歴史と小説が出会うところ・井上ひさし歴史小説の沃野 時代小説の滋味・宮部みゆき「言葉」の生まれる場所・吉川晃司我々が中国史に辿り着くまで・江夏豊司馬遼太郎真剣勝負・五木寛之乱世を生きるということ

W.  講義&対談「中国古代史の魅力」

中国古代史入門どこから学べばいいのか・白川静日本人が忘れたもうひとつの教養・平岩外四逆風の中の指導者論・藤原正彦英語より『論語』へ・秋山駿春秋時代から戦国時代へ・マイケル・レドモンド碁盤上に宇宙が見える・項羽と劉邦、激動の時代ふたりを動かした英雄たちと歴史的必然

X 付記

『三国志』をより深く楽しむための本・宮城谷昌光中国歴史作品の年代一覧・特別随想「ふりかえること」・対談者略歴/宮城谷昌光出版年賦

  どうですか。宮城谷ファンであれば、どの記事もすぐにでも読んでみたいと思うに違いありません。

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(文春文庫「三国志読本」amazon.co.jp)

  この本は、文藝春秋社の雑誌に掲載された宮城谷さんの記事を、「三国志」完成を記念して、一冊の本にまとめた内容となっています。そうした意味では、「三国志読本」と名付けたい思いも分かる気はしますが、内容的には(嬉しいことに)、「宮城谷読本」と言える内容になっています。

  ちなみに、最も古い記事は1998年年8月の水上勉氏との「歴史と小説が出会うところ」と題された対談記事。そして、最新の記事は20137月のインタビュー記事「『三国志』歴史に何を学ぶのか−構想十年、執筆十二年の大長編を終えて−」となっています。その間の宮城谷さんの執筆の歴史がこの本に詰まっていると言っても過言ではありません。

【三国志読本】

  まず、この本の趣旨に沿う「三国志」については第2章で存分に語られています。

  はじめの文章は、連載開始直後のインタビューとなっていますが、足掛け12年となる連載となった宮城谷版三国志に対しての深い想いが語られています。以前のブログでもご紹介した2001年のインタビューですが、改めて「三国志演義」によらない正史「三国志」に挑む氏の覚悟にほれぼれとします。

  氏は、この遠大な小説を後漢末の中国からはじめています。

  それは、以前にもご紹介した名宰相、楊震のエピソードです。あるとき、楊震が宰相となったことを祝い、昔からの知り合いであった男が祝い物を持って楊震の家を訪ねます。楊震がその贈物をあけるとその底には大金がしのばされていました。

  楊震はどんなに親しい中でも人に疑われるような現金を受け取るわけにはいかない、と拒否します。すると男は、「ここには、あなたと私しかいません。我々が心に秘めておけば、誰もこのことを知るものはおりません。」と再度現金を渡します。

  楊震は、静かに「あなたは誰もいないというが、窓の外を見れば天が知っており、地が知っており、私が知っており、あなたが知っている。四人もの人が知っていることを隠しておくことができようか。」と言って受け取らなかったといいます。

  このエピソードは、宮城谷氏のこの小説に対する想いがつまっていたのです。この本を読むと、その想いが執筆の間、氏の胸に常にあったことが良くわかります。

  さらに、この物語が後漢から書き始められたもう一つの理由も語られます。

  それは、「演義」では、敵役として登場する曹操を語るために登場させなければならない人物がいたことに由来します。それは、曹操の祖父である曹騰です。曹騰は、後漢後期に30年に渡り4人の帝に仕えましたが、彼は宦官でした。後漢時代の皇帝は孤独な存在であり、国家の運営はすべて官僚が行うため、皇帝は常に奏上を聴き認可を与えるだけの存在です。

  常日頃、情報収集や相談できるのは、皇后である妃もしくは帝のそばに仕える宦官しかいなかったと言います。そして、皇帝に直に話ができる側近として、彼らは王朝に力を持つようになります。妃として力を振るう勢力が外威であり、宦官であったのです。

  後漢王朝では、宦官が力を持ちそれが王朝末の腐敗を招き寄せることになるのです。

  宦官は当然去勢されており、子を持つことはありません。しかし、曹騰は中常侍・大長秋などの高いくらいにいたため、養子を取って家を存続することが許されました。そのため、曹騰、その養子である父親の養子として迎えいれられたのが曹操だったのです。宮城谷氏は、この出自が曹操の豊かな人身東洋術を生み出したと語ります。

  つまり、「三国志」で曹操を語るためには、後漢末の宦官で力を振るった曹騰を描くことが必要であったということです。

  この章で語られる曹操と劉備玄徳の話は、とても魅惑的です。

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(「三国志」最終巻 amazon.co.jp)

  三国志の時代は乱世の時代です。乱世の時代には、儒教ではなく、道教が流行ると言いますが、劉備玄徳は、まさにこの道教的な臭いがするのだと語ります。さらにこの頃にはまだ知られていない仏教的な要素すらあると言うのです。その認識に至った時に、はじめて劉備が理解できた、との話は面白く、皆さんもぜひこの本でそのココロを味わってください。

【中国歴史小説への道】

  さて、宮城谷ファンにとって、この本の第3章と第4章は時間を忘れて楽しむことが出来ます。

  第3章は、歴史小説をこよなく愛する人たちとの対談が収められています。水上氏との対談では、宮城谷氏が最初に読み始めたレ小説が、柴田錬三郎さんの小説であり、それまでは、ほとんど本を読まなかったという意外な話が出てきます。

  また、井上やすし氏との対談では、若き日の宮城谷さんが小説を書き始めたころにどうしても自分の文体に納得することが出来ず、欠くことが出来ずに悩む碑が続いたとのエピソードが語られます。そのときに、様々な文章読本を読み漁ったそうなのですが、最後にわらにもすがる思いで読んだのが、井上やすし氏の「文章読本」であり、それに勇気づけられたとの話も傑作です。語られた井上さんは、反応に困った様子なのが微笑ましい。

  作家仲間の宮部さんとの対談(宮城谷さんの奥様も登場)、意外なことに中国の歴史小説に造詣が深い吉川晃司さんとの歴史話、司馬遼太郎さんの大ファンという名投手江夏豊氏との司馬遼太郎談義は、くめども尽きぬ面白さを秘めています。どの対談も心から楽しめる対談です。

  ミュージシャンで俳優の吉川晃司さんが無類の中国好きであったり、先日亡くなった広島カープの鉄人衣笠氏の盟友である江夏豊氏が、司馬遼太郎の歴史小説の大ファンであるというワンダーもこの章で味わうことができます。

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(吉川氏と宮城谷氏 bunshun.jpより)

  第四章では、宮城谷さんが自らの口から歴史小説を書くこととなった経緯や歴史小説とは何かという奥深い秘密を語ってくれます。

  なんといっても読みごたえがあるのは、宮城谷さんが自らの歴史小説家としてアイデンティティーを得るきっかけとなった甲骨文字研究の第一人者白川静氏との対談です。宮城谷氏は、白川氏の漢字解読の文章には、彩と物語があると語ります。例えば、中国古代の詩を集めた「詩経」にある雨乞い舞を献上する詩。その白川氏の訳文を読んで、宮城谷さんは、「舞う人の服が青い服で、(中略)郊外の広々とした中で、雨を乞う。青空の下で、同市たちが青い服を着て舞う姿は、いまぼくらが想像しても非常に美しいんですよ。これひとつでも、小説が書ける。」と白川氏の文章にインスパイアされる様を語っています。

  さらには最後を飾るインタビュー「項羽と劉邦、激動の時代」にも宮城谷歴史小説の秘密が満載されています。項羽と劉邦は、秦滅亡後の乱世の楚漢戦争の時代に争った英雄ですが、この二人を語るには、春秋戦国時代の覇の歴史を経験する必要があったことが綴られています。それは、綿々と流れていく時代そのものを感じることができなければ、歴史小説を書くことができないという、とっておきの秘密なのです。

  その心は、皆さんもぜひこの本で解読してください。宮城谷中国の魅力が一段と輝くこと間違いなしです。


  今年のゴールデンウィークは、後半戦の天気がいまいちのようです。少し落ち着いて、読書するにはうってつけと思います。皆さんも健康に気を付けて元気でお過ごしください。

  それでは皆さんお元気で、またお会いします。


📖今回も最後までお付き合いありがとうございます。
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posted by 人生楽しみ at 13:50| 東京 ☀| Comment(0) | 評論(対談) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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