2017年11月12日

知が解き明かす人類の未来


こんばんは。


  モノづくり大国日本の劣化が心配です。


  解散総選挙で安倍晋三氏が率いる自民党が圧勝し、株価が連日高騰していました。


  与党は、選挙中に求人率と株価を基にアベノミクスの成功を喧伝していましたが、一方で地道に働く人たちの収入が実質的に目減りしていることも事実です。世の中では、リーマンショック以降、日本の終身雇用制度が崩壊し、正社員でも処遇は成果と連動する仕組みが定着しました。


  しかも、正社員の数は減少し、非正規労働者の数が増加しています。今では、日本の技術が高齢者層に集中し、技術の伝承度合いは非正規労働者の数と反比例しているように思えます。製造業の現場では、ロボットやマニュアルが横行し、技術の裏打ちのない非正規労働者がものを作っている現実があると思われます。


  現場感覚としては、これまで熟練の技術者が行っていた作業をアルバイトのお兄さんが行うこととなり、必要な「安全・安心・信頼」の元となる技術が次世代に継承されていないのです。そして、このことが、モノづくりの劣化に直結していると大いに懸念されます。


  今回、自民党が公約として掲げた「教育無償化」のために、安倍首相は経済界に3000億円の拠出を依頼しました。日本の企業は、会社の存続リスクを軽減するためにインフラ投資や人件費を効率化して内部留保を厚くしています。その余裕を拠出することは可能でしょうが、企業のお金の使い方としては今一つなのではないでしょうか。


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(経団連会長の記者会見 yahoo.co/jp)


  資金の内部留保が厚くなれば、経営リスクが減り、業績の体面が保たれて企業の株価は上がります。投資家は喜ぶのかもしれませんが、我々労働者にとっては、収入が増えるわけではありません。正規労働者の数と収入が増えなければ、非正規労働者が増加し、さらにモノづくりは劣化します。また、収入が増えなければ個人消費は慎重となり、景気が良くなるはずはありません。


  教育無償化のために3000億円を拠出するよりも、人件費を厚くする方が、技術が引き継がれ、格差是正が進み、個人消費が伸びて景気が高まると思います。世の中にお金が回って景気がよくなれば、税収も上がり、より効果的に教育無償化の費用が捻出されるのではないでしょうか。


【すべてが相対化される時代】


  ここ数年の世界は、グローバリゼーションが進み、民主主義や自由経済が進むと見えながら、逆の世界へと潮流が向かっています。イギリスではEU離脱が決まり、オーストリアでは右派政党が第一党となり、アメリカでは、アメリカファーストのトランプ大統領が登場しました。


  民主主義は、多数決です。人類のあるべき姿が見えているときには、人々はその指針に向かって賛成反対が鮮明になります。しかし、相対性が高まり、複雑系が横行する世界では、賛成反対の基準が目の前の苦しさを取り除くことだけに特化してしまいます。


  移民によって仕事を奪われる、医療費が高騰して医者に行けない、いつ爆撃され殺されるかわからない、その不安を取り除こうとすれば、それを実現すると公言する人間がモラルを持っていてもいなくても、その言葉を支持してしまうのです。


  政治も経済も紛争も宗教も相対的になったとき、人はどんな未来を想い描いて生きればよいのでしょうか。


  今週は、人類の知を代表する人々に、「人類の未来」についてインタビューを行った本を読んでいました。


「人類の未来−AI、経済、民主主義」(吉成真由美インタビュー・編 NHK出版新書 2017年)


  この本のインタビューを行ったのは、吉成真由美氏。こうした本は、質問者が的を射ていなければ良い回答を得られることはありません。氏は、MITを卒業し、ハーバード大学大学院で修士課程を修了したとの経歴の持ち主です。元NHKのデレクターで、現在はサイエンスライターという才女です。さらに、ご主人は、ノーベル賞を受賞した利根川進氏というから驚きです。


  氏は脳研究の専門家ですが、回答する知の巨人たちも、とても楽しそうに語っています。


  5年前に出版されたベストセラー「知の逆転」も名だたる英知の持ち主にインタビューを行った、本当に面白い本でしたが、今回の本も勝るとも劣らぬ面白さでした。


  今回、インタビューに答えた知の巨人たちは、


・モーム・チョムスキー:「知の逆転」にも登場した言語哲学者。

・レイ・カーツワイル:2045年にシンギュラリティが起きると提唱する未来学者・AI研究者

・マーティン・ウルフ:元世界銀行のチーフエコノミスト、フィナンシャルタイムズの論説主幹

・ビャルケ・インゲルス:デンマークの世界的に有名な建築家

・フリーマン・ダイソン:アインシュタインの後継者と言われる数学者、宇宙物理学者


  この顔ぶれを見ただけでも期待に胸が膨らみます。


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(「人類の未来」 amazon.co.jpより)


【シンギュラリティは起きるのか】


  人工知能は、現在のテクノロジーの中でも今最も話題に上ることが多いテクノロジーです。


  以前にも、松田卓也氏の人工知能を語る本を紹介した際にレイ・カーツワイル氏の仮説を紹介しましたが、この本ではその内容がご本人からグローバルな視野で語られています。


  その仮説とは、現在のテクノロジーの発展は指数関数的に発展してきており、その法則に従えば、2045年にコンピューターから発展した人口知能は、そのキャパシティが人間の脳のニューロンとシナプスの数に追いつくこととなり、人工知能は人間の脳を超える、というものです。


  「シンギュラリティ」とは、数学的な特異点のことを指しています。もともとは、∞(無限大)のことを語る言葉ですが、宇宙物理学の世界ではブラックホールの内側の世界を語るものとなります。つまり、理論上そこまでは計算ができるが、その先に何があるのかは不知である、という意味です。カーツワイル氏は、人工知能が人間の脳と同じ能力を持った後に何が起きるのかは不知である、つまり、誰にもわからないと言っているのです。


  2045年と言う年号は、ある法則から導き出されています。


  インテルの創業者の一人、ムーア氏は集積回路上のトランジスタの数の増加(進歩)を「ムーアの法則」として説明しました。それによれば、集積回路上のトランジスタの数は、18カ月で倍になり、その後も18カ月ごとに倍になっていくというのです。この法則によれば、集積回路上のトランジスタの数は、20年で1万倍以上に増加し、コンピューターは同じスピードで進化することになります。


  この法則は、提唱されてからその通りに推移しているわけですが、カーツワイル氏は、この法則をさらに進めて、「収穫加速の法則」を提唱しています。それによると、テクノロジーの進歩は、新たな技術革新が起きるたびに、指数関数的に進歩するというのです。農業革命、産業革命、エナルギー革命、コンピューター革命と、エポックがおきるたびに進化の速度は、2×244×41616×16256・・・・・・と言う具合です。


  そうして計算していくと、人工知能の進歩は2045年には人口知能が物理的に人間の脳を超えるところに達するというわけです。


  カーツワイル氏のインタビューは、とても刺激的です。


レイ・カーツワイル氏01.jpg

(レイ・カーツワイル氏 wikipediaより)


  2045年の前には、ひとつのエポックがやってきます。それは、コンピュータが人間の行うすべての作業を超えるときは、2029年だというものです。2029年になると何が起きるのか、カーツワイル氏は、二つの未来を提示します。ひとつは、医療分野でのナノテクノ化です。例えば、人間の体内にある抗体をナノテクによって人工抗体として体内に送り込むというものです。


  そして、もう一つの未来は、攻殻機動隊の世界。人間が、人工的に作られたスクリーンやコンピューターデヴァイスを体内に埋め込むことにより、人間の能力を飛躍的に拡大させる、という考え方です。果たしてそうした未来は実際にやってくるのか。


  カーツワイル氏は、現在70歳ですが、氏は、2029年には、テクノロジーによって人類の寿命を1年延ばすのに1年以内で成果が出るようになり、人間の寿命が飛躍的に伸びると予想しています。そして、2029年まで生きるために寿命を延ばすためのたくさんのサプリメントを毎日飲んでいる、というのです。驚きですね。


  「シンギュラリティ」について、吉成さんは言語学者のチョムスキー氏と今最も先端を行く建築家のインゲルス氏にその「特異点」が本当に来るかを質問しています。チョモスキー氏もインゲルス氏もそれには極めて懐疑的でした。なぜか、その答えは皆さんこの本で探求してください。お二人とも自らの「知」において、答えを出しており興味が尽きません。


【人類の未来への知】


  この本のインタビューは、本当にどの章をとってもとても刺激にあふれています。


  マーティン・ウルフ氏の世界経済に対する見識は明確です。その明確さとは、高い見識で「わからないこと」とその問題点を明確に語ります。例えば、日本の1000兆円を超える債務超過について、政府が国民に対して負っている負債は、政府の支払い能力を超えている可能性がある、と語ります。


  しかし、政府が支払い不能を宣言する必要もなければ、破たんを宣言する必要も全くない、と言います。国民が、その負債の認識を異常と思わない限り問題はなく、処方箋としては政府が国内の総需要を喚起して、好景気を持続していくことこそが大切だと言います。


  それでは、この財政負債の増加はいつまで続くのか?氏は、それがいつかはわからないと明確に応えます。しかし、負債増加が止まるときは、日本国民が国債に投資しなくなった時だ、と言うのです。この一連の質疑回答は、とてもスリリングです。


  デンマークの建築家インゲルス氏へのインタビューも面白い。


  彼の率いるグループは、世界各地でまったく新しいコンセプトの建築物を創造し続けています。例えば、現在、ニュヨークの世界貿易センタービル2やカリフォルニアでのグーグル本社をてがけているそうです。その建物の斬新さは、そこに住んでいる人間を中心として、新たなテクノロジーと発想によって刺激と共生を生み出しているのです。いったいどうやれば、そんな建築物を創造することができるのか、その答えがインタビューの中に見えるのです。


the8-house.jpg

(住宅建築「the8-house」 wired.jpより)


  さらに、最後の宇宙物理学者ダイソン氏とのインタビューは最後を飾るにふさわしい面白さです。


  サイエンスと物語について語る言葉は、まさに現在の最先端を明確化するわかりやすい言葉にあふれています。現代の物理学の最先端を行く、「ひも理論」と「素粒子の標準理論」に対する見解は、あまりにも見事な解析に思わずうなってしまいます。


  さらにパラダイムシフトにつながるサイエンスの大発見は、今の発想の延長線上にはない、と語る言葉には未来に向かっての力強い決意が感じられるのです。


  果たして人類の未来はバラ色なのか、はたまた暗黒なのか。カーツワイル氏は、未来に対して楽観的ですが、それ以外の識者たちは一様に未来のために大切なのは今である、と感じているようです。今起きていることを的確に捉えて認識すること、そしてそれを着実に未来へとつなげていくことが、未来を作るのだと語っているのです。



  いやぁー、この本を読み始めると脳みそにアドレナリンが走り回るように興奮します。みなさんも、ぜひとも最先端の知を味わってみてください。数ページごとに思わず考えてしまい、その刺激に時を忘れること間違いなしです。


  それでは今日はこの辺で。皆さんお元気で、またお会いします。



本今回も最後までお付き合いありがとうございます。
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posted by 人生楽しみ at 23:19| 東京 ☁| Comment(0) | 評論(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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