2017年10月22日

斎藤泰弘 レオナルド・ダ・ヴィンチの探求


こんにちは。


  皆さんは、レオナルド・ダ・ヴィンチの本名をご存知でしょうか。


  そのフルネームは、レオナルド・ディ・セル・ピエーロ・ダ・ヴィンチといいます。彼は、生前にその出身をフィレンツェと語っていたそうですが、この名前の意味は、「ヴィンチ村出身のセルの(息子である)レオナルド」となります。つまり、彼を呼ぶときには、レオナルドと呼ぶのが最も納得感があるということになります。


レオナルド01.jpg

(レオナルド・ダ・ヴィンチ像 wikipwdia)


  当時のイタリアは、一つの国というよりもいくつもの領主により国が分かれており、ヴィンチ村はフレンツェ共和国内にあったので、フィレンツェ出身と言っても決して嘘とは言えないようです。


  今週は、ルネッサンス期のイタリアの天才、レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画の謎を探求した本を読んでいました。


「ダ・ヴィンチ絵画の謎」(斎藤泰弘著 中公新書 2017年)


  著者は、今年71歳となる京都大学の名誉教授。あとがきでは、この本を執筆した動機について、長年レオナルドの手稿を研究して来たが、研究書としてその成果を出版しても今や誰にも読んでもらえない。そこで、研究を発表するには多くの人が読んでくれる形で上梓するのが良いと思った。と述べています。


  この本には、あっちこっちに「質問・疑問」が問われ、斎藤氏は、それにこたえる形でレオナルドについて、様々に語っています。例えば、第二章のはじまりは、「さて、レオナルドが生まれ故郷ヴィンチ村近くで描いた、風景素描のことから話を始めようと思ったら、『すみません。その前の生い立ちから話してもらえませんか?』という声が上がった。なるほど、それももっともな話だ。それでは、彼が生まれた時の話から始めよう。」とレオナルドの出生から話が始まります。


レオナルド00.jpg

(レオナルド絵画の謎 amazon.co.jpより)


  ところどころで、こうした質問がなされ、斎藤氏はそれを解説していくわけですが、その内容は決して堅苦しくなく、軽妙です。とても70歳を超えた研究者が著者とは思えず、引き込まれるうちに、話は次々と展開していくことになります。その謎かけと回答は、まるで推理小説でも読むような面白さとワンダーを我々に味あわせてくれます。


  絵画を語る本で、これほどアッと言う間に楽しく読み終えてしまった本は久しぶりでした。


【レオナルドの手稿とは】


  レオナルド・ダ・ヴィンチは、1452年にヴィンチ村で生まれ、1519年に67歳で亡くなりました。イタリアでは、当時ルネッサンスの最盛期で特にメジチ家の本拠地であったフィレンツェでは、人文運動が隆盛を迎え、宗教、芸術の中心地となっていたのです。


  さて、第2章では、確かにレオナルドの生い立ちが語られます。


  まずは、レオナルド出生の秘密から生い立ちが語られますが、その秘密については斎藤氏の本を読んでのお楽しみです。


  14歳のレオナルドは、当時フィレンツェで最も優れた職人を抱えていたヴェッキオ工房に弟子入りし、職人として技術を学びました。当時、工房は絵画や彫刻だけではなく、様々な工芸品を手掛けており、芸術以外にも今でいえば、設計、化学、機械工具、冶金、金属加工、革細工、土木など、幅広い技術を身に着けていました。


  当時の徒弟制度は、優秀な職工は20歳で独立して親方を名乗ることが出来たそうです。レオナルドも20歳のときには、親方として独立し、聖ルカ組合の一員となっていました。その後、レオナルドは、フィレンツェからミラノ、ヴァチカンなど、各地で活躍しています。


レオナルド03.jpg

(聖アンナと聖母子と子羊 wikipedia)


  ところで、レオナルドは40年間に渡り、自ら考えたことや様々な覚書を手稿として残しています。その分量ですが、この本でも質問として、「いったいレオナルドの手稿は、何冊あったのか?」と聞かれています。手稿はいくつにも分かれていますが、愛弟子のメルツィによって編まれた「絵画の書」と呼ばれる手稿集では、編まれた時点で手稿は18冊あったといいます。そのうち現存する手稿は8冊。つまり、44%程度が現存するのでは?と推定しています。


  ちなみに、ウィキペディアでは、その分量は13000ページで、現存するものは5000ペ−ジと記されています。その手稿は、哲学、地質学、物理学などの思索から、人体の写生図、自然界の写生、道具や武器の図面など、多岐にわたります。


  この本の著者である斎藤泰弘氏は、長年にわたってレオナルドの手稿を研究してきた先生でした。その研究を生かして、氏は、生のレオナルドの声である手稿の記述を通して、彼の絵画の謎を解き明かしていくというワンダーな手法でこの本を生み出したのです。


  まずは、この本の目次を見てみましょう。


はじめに

1章 『モナリザ』は女装したダ・ヴィンチか

2章 最初の風景素描と『受胎告知』

3章 フィレンツェ時代の自然観

4章 ミラノ公国付きの技術者

5章 スコラ自然学との出会い

6章 ミラノ時代の地質学調査

7章 『聖アンナと聖母子』の謎

8章 大地隆起理論への疑問

9章 世界終末の幻想

10章 「どうぞ其処を退いてください あなたはいつも遮るのです」

11章 わたしがどうしてあなたに向かって微笑んでいるのか、分かる?

12章 ザッペリ説にも問題が

最終章 晩年のレオナルド

あとがき


【レオナルドはオタクなのか】


  レオナルドの手稿を研究した著者によると、そもそもレオナルドは私生児であり、母親の愛情を知らない孤独な人であったそうです。レオナルドの手稿は、鏡に映したときに普通に読める鏡文字によって記されているものが多く、こうした鏡文字での記載が得意になったのも他人に迎合しない人柄の表れであるのかもしれません。


  名画「モナリザ」や「最後の晩餐」を見ると、レオナルドが工房で独り立ちする以前から絵を描かせれば右に出るものがいない腕を持っていたことも不思議ではありません。にもかかわらず、レオナルドが完成させた絵画で現存しているものは、数えるほどしかありません。


  レオナルドは、孤独な完全主義者だった。


  この本を読むと、変わり者であり天才であったレオナルドの姿が浮かびあがります。鏡文字もそうですが、フィレンツェで自らマエストロとして注文を受けていた時代。レオナルドの元には、その評判からたくさんの注文が舞い込んできました。ところが、その注文を受けたレオナルドは、いつまでたっても受けた注文の絵を完成させることがなかったというのです。


  あまりにも未完の受注が多かったために、フィレンツェではレオナルドは絵を完成させない(つまり、契約を履行しない)マエストロとの風評が立ち、そのうちに注文自体がこなくなりました。そのときに、ミラノ公国から声がかかり、レオナルドは自らを戦争のための武器や設備を企画・製作する技術マエストロとして売り込み、ミラノへと移ったのです。


  レオナルドの契約不履行が単なるなまけ癖なのか、完全主義を貫こうとした結果なのかは不明ですが、変わり者のレオナルドは、絵画の技術を高めるためには、すべての物事を正しく記録することが必要であると考えていたようです。この本を読むと、その「正しい」という言葉が相当に深い言葉であることが良くわかります。


  レオナルドが、人を正しく描くために体のあらゆる部分をスケッチし、母親の中の胎児や人体の骨までもそれぞれのパーツごとにスケッチしていたことは良く知られています。


【絵画に描かれた地球の神秘】


  そのレオナルドは、絵画の背景となる自然をも正しく理解したいとのオタクにも近い欲求を持っていました。そのことは、現存するもっとも古いレオナルドのスケッチからもわかります。第2章で語られる1473年の風景素描の分析は、とても興味をそそられます。


レオナルド02.jpg

(1473年の風景素描 wikipedia)


  ヴィンチ村の近郊の風景を描写したかに見える素描は、右半分の風景と左半分の風景は、同じ景色を描きながら、まったく違うパースペクティブを持っているといいます。右側は、遠景ではありますが、川に浸食されていく岩山の姿が描かれており、左側には、まるで鳥の目が見たように俯瞰した山裾の風景が描かれています。


  ここから、著者はレオナルドの自我が見出した自然への独自の観察眼を語っていくのです。


  この第2章から、レオナルドの自然に対する研究観察が解き明かされていきます。ある日、化石を見つけたレオナルドが、なぜ貝殻の化石が山上の地層から発見されるのか疑問に思うところから物語は始まります。当時、山の地層に貝殻の化石があるのは、ノアの方舟伝説の大洪水のときに運ばれたためだ、と言われていました。しかし、異なる地層からも化石は発見されます。


  ノアの方舟伝説だけでは、複数の地層から化石が発見される事実を説明することができません。レオナルドは、その貝殻の化石から化石が発見される山の地層は、もともと海であったのではないかとの仮説をたてます。そして、陸地が隆起し、川によって浸食されていき、また隆起するという地質学的発想がもたらされます。


  レオナルドが残した絵画の背景は、こうしたレオナルドの観察し、探求する志が反映されていくことになる、と著者は具体的な証言を挙げて語ります。レオナルドの手稿をたどることによって、レオナルドがこの大地がどのように成り立ち、どのように消滅していくのかを解き明かしていく過程がまるで謎解きのように語られていきます。


  そして、第10章からはいよいよ「モナリザ」の謎へと進んでいきます。第10章と第11章の表題は、まさに「モナリザ」に秘められた謎そのものに繋がっていくのです。


モナリザ01.jpg

(世界の名画「モナリザ」 wikipedia)


  絵画から発せられる魅惑の光と影は、現物をこの目で見なければ味わうことが出来ません。ルーブル美術館で見た「モナリザ」の微笑は、見る者のすべてを魅了する恐るべき力を発していました。その感動は、いったいどこからくるのか。


  この本を読むと、その謎の一端が明かされるのです。


  中公新書は、絵画や旅行本など、テーマによってカラー版で出版されます。このレオナルド絵画の謎解きも、カラー版だからこそ、迫力をもって我々に迫ってきます。



  今年の秋は、秋らしくなったと思えば冬の寒さとなり、あまつさえ台風までが日本を狙っています。それでも秋の夜は長くなります。皆さんも、秋の夜長にレオナルドの絵画の謎解きを楽しんでみてはいかがでしょうか。改めて、「モナリザ」の隠された魅力に触れることができるに違いありません。


  それでは皆さんお元気で、またお会いします。


本今回も最後までお付き合いありがとうございます。
にほんブログ村 本ブログ おすすめ本へ

にほんブログ村⇒プログの励み、もうワンクリック応援宜しくお願いします。



posted by 人生楽しみ at 14:35| 東京 ☔| Comment(0) | 評論(文芸) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: