2017年10月15日

エフライム ハレヴィ 元モサド長官の告白


こんばんは。


  いつの時代も解散総選挙は、与党VS野党の総力戦となりますが、今回は民進党が希望の党に合流を決めたところから、様々な流れが生まれました。


  キーポイントは、前原代表と連合の神津会長の思惑と小池都知事の思惑がかみ合わなかったところにあります。前原氏の「政権交代のためには手段を選ばない。」との基本コンセプトは、神津会長の考え方と一致していたと思いますが、小池さんの考え方とは相いれなかったようです。


  小池さんは、前原さんとの会談の後で、1994年の社民党村山政権の時の連立を例に出して、首班指名には様々な手段があることを語りました。どうも、村山政権時代の自民党に比べれば、自分が「安保法制維持、憲法改正」を踏絵にしたことは筋が通っている、と言いたかったのはないでしょうか。


  確かに小池さんが民進党のリベラル派の合流を阻んだことは、筋が通っていたのかもしれませんが、裏を返せば、のちに語っているとおり、自民党との連立を視野に入れての排除だったと理解できます。ということは、小池さんは結論として第二自民党を自らの力で作りたかっただけなのか、と思えます。たしかに小池さんは、かつて小泉さんや安倍さんの郎党でした。


  民進党は、もともと保守とリベラルが共闘を組んだ党なので、小池さんがこの共闘に理解を示さない限り、本当の合同にはならないことは明らかでした。自民・公明VS希望の党VSリベラル野党との構図になったことで、自民党はホッとしたことでしょう。


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(枝野代表の街頭演説 asahi.comより)


  ただ、希望の党はその懐の浅さを露呈したことで、自民党と同じ穴のムジナとなったと感じる人が多くなったのではないでしょうか。これでまた、投票率は下がりそうです。


  我々日本国民にとって大切なことは自らの選挙区の候補者が、どのような政策を実行しようとしているのかを見極めることです。比例区については、政党を選択するので、保守か新保守かリベラルかを明確にするわけですが、小選挙区では我々の人を見抜く力が問われます。


  ひとりでも多くの人が、未来の民主主義と自由経済の発展を見据えて、権利である一票を行使することを願ってやみません。日本人の80%が選んだ議員で構成される国会を期待しています。


  さて、今週は待望のイスラエル 元モサド長官の回顧録を読んでいました。


「イスラエル秘密外交:モサドを率いた男の告白」

(エフライム ハレヴィ著 河野純治訳 新潮文庫 2016年)


【プロフェッショナルのインテリジェンス】


  著者のエフライム・ハルヴィ氏は、1998年から2002年までの4年間、モサド(イスラエル諜報特務庁)の長官を務めた人物です。


  モサドの成立は、1948年のイスラエル独立後、それ以前から諜報を司ってきた外務省政治局、イスラエル保安庁、イスラエル参謀本部作戦局諜報課という3つの組織が統合された1949年の12月とされています。その組織は、首相府の直下にあり、イスラエルのトップと直接つながっているインテリジェンス組織です。


  昨今では、インテリジェンスという言葉が当たり前となっていますが、一昔前はスパイ組織と言った方がわかり易かったようです。事実、小説や映画では、007 ジェームス・ボンドを筆頭にナポレオン・ソロやスパイ大作戦など、諜報機関やスパイを題材としたフィクションは絶大な人気を集めました。


  代表的な組織といえば、旧ソ連のKGB、アメリカのCIA、イギリスのMI6、そしてモサドがすぐに話題に上ります。


  このブログは、インテリジェンスが大好きで、これまでにも25冊のインテリジェンス本をご紹介してきました。その中には、元外務省分析官の佐藤優さん、元NHK報道局の手嶋龍一さん、ジャーナリストの池上彰さんの本も含まれています。


  日本では、戦前に中野陸軍学校という本格的なインテリジェンスオフィサーを養成する機関がありましたが、戦後には諜報を司る組織は存在していません。(各省庁には、内閣調査室を始めそれぞれ情報分析組織がありますが、国益に資するためのインテリジェンス組織とは言えないようです。)


  少し変わったところでは、吉野準氏が書いた「情報機関を作る 国際テロから日本を守れ」(文春新書)が、国際社会の情報コミュニティーと相互関係を築くためには、インテリジェンス組織が必要であることを説いており、とても面白い本でした。また、外交官という意味では、日本のシンドラーとして有名になった杉原千畝のインテリジェンスセンスが見直されています。


  この本のPOPには、インテリジェンスというと必ず登場する佐藤優氏が、「私はこの人からインテリジェンスのすべてを教わった。」という文句が記載されています。さらに解説では、氏がハレヴィ氏から直接、インテリジェンスに関して様々な会話を交わしたことが記されています。


  ハレヴィ氏は、単にモサドにおいて長官職を勤めただけではありません。氏は、1934年生まれですので、イスラエルが独立した時には14歳。イエルサレムのヘブライ大学で法学修士号を取得したのち、1961年にモサドに入庁しました。とすると、入庁したのが、27歳のとき。そこから28年間モサドに在籍していたとされています。


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(「イスラエル秘密外交」 amazon.co.jpより)


  この本の中にも出てきますが、モサドから離れている間にはイスラエルの駐米大使や駐EU大使も務めています。公式な記録では残りませんが、外交官の多くは、インテリジェンスオフィサーですので、実質的にハルヴィ氏は、40年以上もインテリジェンスオフィサーとして過ごしてきたことになります。そして、組織の頂点まで上り詰めたということは、イスラエルの歴代首相に仕えてきたイスラエルの歴史の体現者でもあるわけです。


【スパイ物語とは別の告白本】


  フィクションの世界で、インテリジェンスオフィサーは暗号、変装、偽装工作、暗殺、ニセ情報、心理戦、詐欺、などの技術を駆使して、国益のために戦いを繰り広げます。もちろん、インテリジェンスの現場では、実際にそうしたアクションが起こされ、成功と失敗を繰り返してきました。もしも、皆さんがそうした現場でのインテリジェンスを求めるとすれば、この本は大分趣が異なります。


  ハルヴィ氏の告白とは何か。それはまず目次から読み解くことが出来ます。


序章 闇の外へ

1章 イラン・イラク戦争の終結

2章 戦争への秒読み

3章 湾岸戦争の足跡、その光と影

4章 中東紛争に対する国際的関心

5章 プロフェッショナル・レベル

6章 イスラエル・ヨルダン和平条約

7条 和平条約締結までの三か月

8章 さまざまな指導者と国の思い出

9章 時代の変化と優先事項の変化

10章 メシャル事件

11章 新長官の最優先事項

12章 傲慢、尊大、自信過剰

13章 新時代の到来

14章 情報の政治的操作

15章 シャロンの功績

16章 責任を負うことと責めを負うこと

17章 現在の新たな視点

18章 外交 可能なことを実行する技術 諜報 不可能事を達成する技能


  この目次から読み取れる通り、この本はモサドがイスラエルという国家の存続のために中東世界と世界をどのようにバランスしてきたか、を語ります。題名にある、「秘密外交」とは、イスラエルが関わった戦争と平和の歴史の裏で、モサドまたはハレヴィ氏がどのようにイスラエルという国を存続させてきたのか、を意味しています。


  その意味で、20世紀の後半から21世紀にかけて中東で起きた出来事に関わってきた人たちにとって、この本は暴露本のように読めるかもしれません。また、イスラエルやパレスチナの人々にとっては、ニュースやジャーナリズムで知っている歴史的出来事の裏で、どのような力学が働き、何が起きていたのかを知ることができます。


  同じモサドを語りながら、この本と以前にご紹介した「モサド・ファイル」(小学館文庫)は、現場のオペレーションと首脳による外交という全く別の観点から語られるノンフィクションなのです。それは、アメリカや旧ソ連が大きくかかわってきたイスラエルとパレスチナ問題とは何だったのかを知る、という意味で我々にとっても大いに示唆に富むものです。


【インテリジェンスとは国益】


  イスラエルにとって、国を存続させることがいかに困難なことだったのか。この本の前半は、ハレヴィ氏がモサドやEU駐在大使としてかかわった国家としてのオペレーションが語られています。


  イスラエルを囲む中東の国々は、日本人にとって決してなじみ深いとは言えません。イスラエルは、地政学的には極めて複雑な場所にあります。イスラムであり、アラブであるパレスチナを国の中にはらみ、エジプト、ヨルダン、レバノン、シリアに囲まれています。イスラエルは、アメリカと密接な関係にあり、イラン、イラク、クエートとも様々な場面で国の存亡をかけた駆け引きを繰り広げています。


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(1993年ラビン首相のオスロ合意 wikipediaより)


  我々には遠い国の出来事のようですが、20世紀から21世紀の初頭、1990年のイラクのクエート侵攻に端を発した湾岸戦争、そして、2001年の9.11.同時多発テロに端を発したイラク戦争は、国連軍の名を借りたアメリカ対イラクの戦争でした。


  イラン・イラク戦争から数々の戦いが繰り広げられる中で、元モサド長官の著者は、歴代のイスラエルの首相に仕えて、イスラエルの存続をかけて各国との交渉を担います。


  特にこの本の中でも最も手に汗を握る場面は、第6章から第8章にかけてのヨルダンとの平和条約の締結です。ヨルダンは、その領土の中に多くのパレスチナ難民を抱え、常にイスラエルとパレスチナの間で仲介役を務めていました。ヨルダンは、アラブを代表するイスラムの国であり、ユダヤの国であるイスラエルとの和平は、国内にいるイスラム過激派たちにとって決して許される交渉ではなかったのです。


  しかし、ヨルダンは自国の存続のためにアメリカを仲介者としてイスラエルとの和平の道を探ります。当時、モサドの副長官であったハレヴィ氏は、数十年かけて培ったヨルダンのフセイン国王の弟であるハッサム皇太子との密接な人間関係とフセイン国王との信頼関係によってこの和平交渉の先鋒を務めるのです。


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(ヨルダン フセイン国王 wikipediaより)


  イスラエル国内の反発、イスラエルのラビン首相との赤裸々なやり取り、仲介役であるアメリカのクリントン大統領の思惑。特に当時ラビン首相のライバルであったペレス外相からの圧力は、この和平がいかに綱渡りのような状況で成り立っていたかを如実に物語ります。まさに手に汗を握る交渉が展開されたのです。


  さらに、ハレヴィ氏が仕えた歴代のイスラエル首脳たちのプロフィールやイスラエルを巡るアラブ各国首脳のプロフィールには、氏の見識が満載です。そして、モサド退任後に襲ったモサドの危機。急遽、モサドの長官として白羽の矢が立ったハレヴィ氏は、モサドの再興にいどみます。インテリジェンス機関にとって必要なことは何か、第11章からはそのことが語られていきます。


  そして、新たなテロリストたちとの闘いの時代。21世紀の戦争とは何か。最後には、テロリストたちとの闘いへの処方箋が語られていきます。


  この本は、インテリジェンスに関する深い洞察に富んでいます。具体的なオペレーションが語られるわけではありませんが、歴史の中でインテリジェンス機関が果たしてきた役割、果たすべき役割が実際の歴史の裏側から語られており、興味が尽きません。歴史とインテリジェンスに興味のある方には、オススメの一冊です。



  来週はいよいよ総選挙の投票日がやってきます。皆さん、責任を自覚し、必ず投票所に足を運びましょう。


  それでは皆さんお元気で、またお会いします。


本今回も最後までお付き合いありがとうございます。
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posted by 人生楽しみ at 17:23| 東京 ☔| Comment(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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