2017年05月07日

逢坂剛 さらばスペインの日々!


こんにちは。


  16年間、書き継がれてきた物語がついに最終話を迎えました。


  逢坂剛氏のイベリアシリーズが、ついに完結したのです。氏がこの作品を「週刊現代」に連載し始めたのは、1997年(平成9年)の秋だと言います。単行本が発売されたのが、20139月ですから、氏がライフワークとも位置付けていた本シリーズは、16年(7巻)を経てついに完結しました。


「さらばスペインの日々」(逢坂剛著 上下巻 講談社文庫 2016年)


spain逢坂01.jpg

(単行本「さらばスペインの日々」amazon.co.jpより)


【スペイン小説の集大成】


  氏のスペインを舞台にしたサスペンス小説の面白さは、これまでにもご紹介した通りで抜群ですが、このイベリアシリーズは氏のスペイン小説の集大成と言っても過言ではありません。ただし、フラメンコギターとフラメンコは、この歴史的エスピオナージには似合わなかったようで登場していません。


  舞台は、1939年。スペインの内戦が終結してから間もなく。日本から中野陸軍学校の第一期生である北都昭平がスペインの地に降り立ったところから物語は始まります。


  この小説は、太平洋戦争を日本国内の視点から描いた小説はあまたあれど、海外にいた日本人の視点から太平洋戦争を描く小説は見当たらない。ぜひ、その視点から小説を描きたい、との強い思いから執筆されました。


  当時の逢坂剛さんは、広告代理店に勤務する傍らでハードボイルド小説を発表し、1987年には「ガディスの赤い星」で、日本冒険小説協会大賞、直木賞、日本推理作家協会賞の3冠を受賞。その後も、先日映画化された公安警察を舞台にした「百舌シリーズ」や自身をモデルとした私立探偵、岡坂神策シリーズなどで人気作家の仲間入りを果たしていました。


  広告代理店の勤務を続けて三十余年。1997年、ついに氏は広告代理店を退職し、小説の執筆に専念することとします。そして、退職から2か月後に満を持してイベリアシリーズの第一話を週刊現代に掲載したのです。氏によれば、この小説の準備期間を遡ると1978年にいきつくそうです。


  1978年にアメリカ国立公文書館が、いわいる「マジック・サマリー」と呼ばれる機密文書を公開しました。この文書は、第二次大戦当時、日本の外務省と各国の在国大使館の間で交わされた暗号通信の内容を傍受した記録でした。当時、アメリカは、日本の通信暗号をすべて解読し、日本の通信内容をほぼすべて把握していたことになります。日本は、アメリカに手の内をすべてさらしながら世界大戦を戦っていたのです。


  その中には、このシリーズの実在人物として重要な役割を果たす在スペイン公使、須磨彌吉郎が本国に送ったいわいる「東(とう)情報」も含まれていたのです。あまつさえ、この「東情報」の内容がほとんど眉唾であることをアメリカは知っていたというのです。


  ちなみに、「東情報」の(とう)は、もともと「盗(とう)」という字だったそうですが、その字があまりにもあからさまだったために「東」とした、と言われています。


スマヤキチロウ01.jpg

(日本の諜報を担った須磨公使  wikipediaより)


  作者は、この情報を聞いて以来、この小説のための資料収集やまだ生きている証人たちへのインタビューを始めたのです。インタビューは、1984年から行われており、準備期間を含めれば、この小説は約30年間をかけて完結した驚異の小説と言えるのではないでしょうか。


【イアベリアシリーズの魅力】


  私が読書の中で魅力を感じるキーワードに、「インテリジェンス」があります。かつて、1970年代にはジョン・F・ケネディ暗殺の真実に迫った「2031年の真実」でノンフィクション作家として名をはせた落合信彦さんが、そのきっかけでした。当時、「インテリジェンス」という言葉は、和製日本語としてはマイナーで、落合信彦氏以外には使う人はほとんどいなかったのではないでしょうか。


  落合さんは、単身日本からアメリカの大学に渡り、身に着けていた空手の技術によって大学で一目置かれることとなり、さらに果敢に研究にも取り組み石油事業にて成功を収めました。大学時代には、心の友の中にマフィアの大物がいたり、モサドに通じる人脈があったりと、のちの情報源となる人脈を築いたようです。


  落合信彦さんの著作から「インテリジェンス」の魅力にひかれていったのですが、当時の日本で諜報を描くことのできる作家はあまり見ませんでした。そのため、ハマっていったのは、フレデリック・フォーサイスやブライアン・フリーマントルでした。彼らのエスピオナージは、実際のインテリジェンスの現場をほうふつとさせるワンダーを備えていて、本当に面白い小説でした。


  また、フリーマントルは、ノンフィクション作品として「CIA」、「KGB」という作品も上梓しており、日本では新潮選書から日本語訳が出ています。もちろん、ソ連の体制崩壊以前の著作ですから、当時、冷戦下でのエスピオナージの実情が取材によって明らかにされているわけですが、そのワンダーに時間を忘れて読みふけったものでした。


  そうした中で、日本のインテリジェンスについて書かれた本は当時まったくないといっても過言ではありませんでした。今から思えば、当時は今のようにグーグル先生がいたわけでもなく、たまたまそうした作品と出会わなかっただけかもしれません。(今にして思えば、西村京太郎さんや新島譲さんの小説があったのですが・・・)


  そうした中で、逢坂剛氏のイベリアシリーズ第一作「イベリアの雷鳴」と出会ったのです。


  当時、「ガディスの赤い星」でその面白さのとりこになってから、岡坂神策シリーズの「クリヴイッキー症候群」やグラナダを舞台にした「幻のマドリード通信」などで逢坂剛さんのエスピオナージを描く小説の面白さに魅力を感じていましたが、イベリアシリーズに出会ってそのエスピオナージの面白さにすっかりハマってしまいました。


  今でこそ柳広司さんの小説で陸軍中野学校は有名になっていますが、当時は東映映画で市川雷蔵さんが主演した「陸軍中野学校」のファン以外にはその名を知る人は少なかったと思います。主人公北都昭平は、陸軍中野学校の一期生で、諜報の技術を学び、参謀本部の神山正興少将の直命によりスペインに送り込まれたスパイだったのです。


  その素性は、当時のスペイン駐在公使にも伝えられておらず、陸軍参謀本部からの直接の命令によって諜報活動を行う使命を与えられていたのです。


  当時、内戦終了直後のスペインは疲弊しており、独裁者フランコは第二次世界大戦の勃発に当たり、中立を宣言していたのです。さらに、内戦は終結したものの、相変わらず反政府運動が続いており、きな臭いテロも横行していました。


  ヨーロッパが枢軸国と連合国へと二分され、世界を巻き込む戦争となった1939年から1940年。中立国であるスペインには、あらゆる国家が諜報を目的にスパイを送り込んでいたのです。イギリスは、イギリスの旅券管理事務所をマドリードに設け、MI6の諜報員であるヴァジニア・クレイトンを送り込んでいます。さらに枢軸国であるドイツは、内戦時にフランコを支援した関係から、多くの情報将校をマドリードに潜入させています。


  そうした中、ドイツ海軍の諜報機関「アプヴェア」を率いるヴィルヘルム・フランツ・カナリス提督が登場します。カナリス提督は、当時ヒトラーから絶大なる信頼を得て、ドイツのために諜報活動を行っていました。当時、ジブラルタル海峡を軍事拠点として抑えることが枢軸国側の大命題でしたが、カナリス提督はその作戦のために自らスペインに乗り込んできたのです。


カナリス提督01.jpg

(「アプヴェア」の元長官 カナリス提督 wikipediaより)


  しかし、カナリス提督はいくつもの顔を持っています。

  今日ご紹介する最後の作品では、前作で処刑されたカナリス元提督がいまだにその影を落とします。そして、最後にそのカギを握ったのは、彼の名前なのです。その謎解きはぜひ本書でお楽しみください。


  こうして、逢坂剛氏がライフワークとも位置付けた一大エスピオナージの世界が私の読書の中で、大きな位置を占めるに至ったのです。


【ついに敗戦、日本人はどうなったのか】


  ホクトは、前作で、恨みを抱くドイツのゲシュタポ将校の罠にはまり、ベルリンに拉致され、ドイツのはずれにあるフロセンビュルク強制収容所に収監され、様々な拷問に苛まれました。しかし、連合軍は、北と南からドイツに『侵入、進軍を続け、ホクトは間一髪のところでアメリカ軍により解放されます。


  もともとカヴァーのためにペルー国籍とスペイン国籍を持っていたホクトは、敵国人として拘留されることなく、スペインへと帰還します。そして、ドイツとの戦争はヒトラーの自決とベルリン開放によって終結します。


  19455月。この第7巻が始まった時点で、日本とアメリカの戦いはいまだに終結していませんでした。イギリスのMI6に所属する北都の恋人となったヴェジニア・クレイトンもマドリードにいて、強い緊張感の中で過ごしています。果たして、日英の戦いが続いている中で、敵国の情報将校とあらぬ関係に落ちたイギリスのスパイにどんな未来が待ち受けているのか。


  そんな中、ヴァェジニアにイギリスへの帰還命令が発令されることになります。


  第5巻で、ノルマンディー上陸作戦のただ中にベルリンへと潜入し、抹殺されかかるという危機の中、命からがら脱出したヴァジニア。その作戦命令の出所がMI6で作戦を取り仕切るキム・フィルビーであると察したヴァジニアは、イギリスに帰ることで、キム・フィルビーの正体に迫ろうと画策します。(ご存じのとおり、キムはソ連の二重スパイだったのです。)


キムフィルビー01.jpg

(旧ソ連キム・フィルビー顕彰切手 wikipediaより)


  一方、スペインは連合国側の勝利の分け前を得るべく、日本との断交を決断し、日本の外交官や駐在員たちは、スペイン政府により軟禁抑留されることとなります。ホクトは、そうした中でも情報の収集を行います。祖国日本が無条件降伏を拒絶し、本土決戦を選択する中で、ホクトにはなすすべもなく、物語は、むしろ淡々とすすんでいくことになります。


  しかし、さすがは逢坂剛氏。物語は中盤から一気にサスペンスへと突入します。ヴァジニアはある日、キムを疑うMI6の友人からオットーと名乗るドイツ人を紹介されます。彼は、ドイツで反ナチス運動の渦中に身を置いており、ヒットラー暗殺計画の生き残りだというのです。


  そして、ある晩オットーに呼び出されたヴァジニアは、その夜を境にロンドンから忽然と消え失せてしまったのです。


  そのことを知ったホクトは、決然とヴァニジア救出のためにロンドンへと向かいます。果たして、手掛かりもなく、行方も知れないヴァニジアは無事に生きているのか。ホクトは、戦争が続く中、ロンドンに渡り、ヴァニジアを救うことができるのか。物語は、緊張を増していきます。



  ところで、ネタバレとなりますが、この小説の最後は、ヨーロッパで収監された須磨公使をはじめとする駐在員たちが、一隻の船でバルセロナから日本へと送還される姿が描かれることになります。その間、日本ではソ連が宣戦布告して樺太から北方4島へと攻め込み、原子爆弾が広島、長崎に落とされます。北都をはじめとする日本人たちは、日本の無条件降伏を目の前にして、様々な思いに抱かれることになります。


  この本の後半は、ホクトの足掛け7年間を描く集大成となります。これまでに登場した人物が、まるでカーテンコ−ルのように次から次へと登場し、この物語のフィナーレを見事に飾ることになります。その見事なラストは、ぜひ皆さんがご自分の目で確かめてください。


  逢坂剛さん。本当に面白い、心から楽しめる小説を世に出していただき、ありがとうございました。この人生の楽しみに感謝して、今回はお別れといたします。最後に置かれた「作者自身によるエピローグ」も読みごたえ満載です。どうぞ、お楽しみに。


  それでは皆さんお元気で、またお会いします。


本今回も最後までお付き合いありがとうございます。
にほんブログ村 本ブログ おすすめ本へ

にほんブログ村⇒プログの励み、もうワンクリック応援宜しくお願いします。



posted by 人生楽しみ at 14:56| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説(日本) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/449667085

この記事へのトラックバック