こんばんは。
巷では、大学受験が真っ盛りで、受験生とそのご両親は日夜、緊張と喜怒哀楽の毎日を送られていることと思います。
被災地石巻では、石巻専修大学が被災受験生の支援のためにネット予備校を開設し、インターネットで学習できる環境を提供しています。また、東京でも被災地域の受験生のために、受験生の東京での宿泊を無料で提供する取り組みも行われています。(詳しくは大沼瑞穂さんのブログにご訪問ください。)
こうした、若者たちの学習への真摯な気持ちと未来への想いを受け止める取り組みには、本当に心が熱くなります。全国の受験生、がんばれ!(うちの子も含む。)
さて、今週は毎年新春に開催される関東大学対抗「箱根駅伝」をめざす大学生たちの明るくも一部奇妙な、胸が熱くなる感動の小説を読んでいました。
「風が強く吹いている」(三浦しをん著 新潮文庫 2009年)
この本は、ライトノベルを中心に様々な出版賞受賞作のレビューを綴ってくれるブログ、「ナマクラ! Reviews」でみごと89点をマークし、「推薦」を獲得しています。そのレビューを読んでさっそく手にとってみました。いやァ、久しぶりに心から感動しました。
(大学生が集う竹青荘は超格安)
皆さん、全国から東京に下宿する大学生の皆さんは、その生活費が大変です。仕送りするご両親も学費のみならず、食費、居住費、光熱費など物価の高い東京に送り続けなければなりません。ご自分の背活を切り詰めながら子供の将来のためにお金をつぎ込む。親の愛情は本当にありがたいものです。(世の教育産業の搾取体質を語ると長くなるので我慢!)
この小説の舞台となるのは、東京の感情八号線沿い、京王線と小田急線の間に挟まれた年季の入った木造二階建ての学生用古アパートです。家主は田崎源一郎というご老人。9戸室を備える「竹青荘(ちくせいそう)」です。住人は「アオタケ」と呼んでいますが、この建物の古さは半端ではなく、二階角部屋の床は、小説開始早々に踏んだだけで抜けてしまいます。
もちろん洗面所もトイレも各階で共用。風呂も大家さんの家出借りるか、近くの「鶴の湯」といおう銭湯に行くかしかありません。今時、珍しい由緒正しき下宿屋さんですが、そのすばらしさは家賃が安いことです。その値段はなんと月額3万円。もちろん敷金礼金はありません。
ここの下宿人たちがユニークです。下宿は「寛政大学」から歩いて5分という至便の場所にあり、住民は全員この大学の学生さんです。大学5年目でなぜか今年3年生のニコチャン先輩。その部屋にはいつもタバコの煙が蔓延しており、その煙は安普請の廊下を越えて向いの部屋まで侵食しています。向かいに住む「ユキ」は、4年生ですでに司法試験に合格している理論派で、大の音楽好きです。ニコチャン先輩とユキは、いつもあふれる煙VSあふれる音の闘いを繰り広げています。
そうかと思えば、二階には「キング」と呼ばれるクイズ好きが住んでおり、数少ないTV所有者で日夜クイズ番組を鑑賞し、出場者よりも先にクイズに正解することを生きがいにしています。そこをいつも訪れるのが、田舎でのあだ名がそのまま引き継がれている「神童」。さらに奥の一番広い部屋には、ジョージとジョータという新入生の明るい双子が入居しています。
また、アフリカ?から国費留学で理工学部に席をおく「ムサ・カマラ」は、流暢な日本語を話します。その日本語はどこで習ったのかとても模範的な標準語ですが、時々あたりまえの日本語の意味を質問するタイミングと間が絶妙で、下宿の中でも人気があります。
(下宿の空室はあと一部屋)
小説の主人公は、この下宿に住む10人の大学生です。この下宿を仕切っているのは、現在4年生の清瀬灰二(通称ハイジ)です。下宿の住人は現在9人。ハイジは、「アオタケ」の残りの一部屋を埋めるべく、10人目の住人を探しています。「鶴の湯」で左官屋さんとそんな話題を話していました。
そして、銭湯を出て歩き出したところ、後ろから颯爽と駆け抜けていく若者がいました。若者の後ろから、エプロンを付けたコンビニの店員風の男が何やら叫びながら追いかけてきます。しかし、若者の走りは尋常ではなく、アッという間に暗闇の先に消え去ってしまいます。
その後姿に魅せられたハイジは、とっさに左官屋さんの自転車に飛びのり、その若者を追いかけます。この若者の名前は蔵原走(くらはらかける)。走は、今年寛政大学に入学するために上京してきたのですが、アパ−トを借りるための資金を麻雀ですってしまいスッカラカンとなって大学の体育館脇で野宿していたのです。(しかも万引き・・・)
ハイジを魅了したその颯爽とした走りは、フォームといい速さといいただ者ではありません。果たして走とは何者なのか。かくして、ハイジは無事に10人目の住人を確保することに成功します。10人が揃う。それがこの小説のキモなのです。
(毎年応援してしまう「箱根駅伝」)
お正月の風物詩といえば今や何と言っても箱根駅伝です。
箱根駅伝は、正式名称を「東京箱根間往復大学駅伝競走」といいます。毎年1月2日に大手町の読売新聞社前をスタートとし、箱根町・芦ノ湖までの5区の往路、翌3日に芦ノ湖から大手町まで6区から10区の復路が競争の舞台となります。そして、この2日間は、日本中が大学生の必死の走りに魅了されるのです。
その距離は、往路が108km、復路が109.9kmの合計217.9km。ひと区間20km前後の10区間は、箱根の山のアップダウンに代表される高低差と温度差、海沿いの風に悩まされる何コースです。主催は関東学生陸上連盟。ここに所属する19校の大学と関東学連選抜1チームの20チームが関東チャンピオンをかけて熱い戦いを繰り広げるのです。
その歴史は古く、1920年の第1回大会から数えて、2012年には第88回を数えるという伝統の競技会です。私の知り合いにも熱烈なファンがいて、鶴見の友人宅では目の前の道路を駆け抜けていく選手たちを毎年親戚中集まって、宴会をしながら窓から旗を振って応援しています。
今年の箱根駅伝では、昨年優勝した早稲田大学と、一昨年早稲田大学を破り、昨年は21秒差に泣いた東洋大学の執念の対決が注目を集めました。東洋大学では、4年生でこの大会が最後となる「山の神」柏原選手が主将を努め、往路箱根の山をのぼる5区で区間新記録をたたき出し、4年連続区間賞を獲得し奮戦しました。
今年は激走を見せた東洋大学が総合で8分以上も記録を縮める劇的な優勝を飾りましたが、駅伝のすばらしさは一人のスターの力だけではなく、すべてのランナーが襷をつなげることにより仲間たちの走りが集まってこそ、その力が発揮されるところです。
(三浦さんが織り成す感性の世界)
「走る」ことを物語にする、とは小説世界ではなかなか難しいことです。しかし、「走る」ことはわれわれ共通の体験であり、皆さんも小学校から大人になるまで運動会や持久走で感激したり、落ち込んだり経験を重ねたことと思います。
この小説が、これほどわれわれを感動させてくれるのにはちゃんと理由がありまず。
もちろん著者に筆力と構成力がなければそもそも小説自体が成立しませんが、この小説の感動はそのことを前提としながら、著者が駆使する豊かな感性に支えられているのです。
高校でトラウマを負ったアスリート走(カケル)は、この小説で語り部の役割も担っていますが、「走る」という行為しか知らなかった走が、ハイジをはじめとした「アオタケ」の住人たちという触媒の中で、自分を知り、人との繋がりを学んで成長していく姿はこの小説のひとつの柱となっています。
その走の言葉が著者の感性を見事に表現しています。
「走る」こと通じて走とハイジは繋がっていきますが、初対面のころ、走がハイジの内面を知ろうと質問を投げかける場面があります。
「・・・・・走るのは、健康のためですか。」
言ってから、走はひそかに舌打ちした。これでは、超音波を発するつもりがいきなり魚雷を投じたようなものだ。魚は驚いて深海に身をひそめてしまうかもしれない。秘密を腹にいっぱい抱えたまま、背びれを輝かせて深く潜っていってしまう。
また、なけなしのお金と地元商店街の協力で夏合宿に行った先で、走が昔の仲間から強烈ないやがらせの言葉を浴びせられる場面では、緊迫したやり取りの末、ハイジが走を救います。その後の会話。
「すみません、ハイジさん」
(ハイジ)「きみが謝る必要はない」
やっぱり怒っているのかなと思い、走は逡巡してから、言葉を選びなおした。
「ありがとう、ハイジさん」、「どういたしまして」
と清瀬は言った。頬のカーブがさっきより柔らかくなっていた。そうか、こういうときは礼を言えばいいんだな。と走ははじめて気づく。ハイジさんは、俺をかばってくれたんだから。憤りと苛立ちが拭い去られていく。
著者の感性は、すべての住人たちの関係にしっかりと注がれていて、この小説の主人公たちの成長と小説の背骨であるプロットを支えて、われわれを感動へと導いてくれるのです。
(読まなきゃ、損、損)
三浦しをんさんは、この小説を書くために6年の時間を費やしたと語っています。それには、小説にリアリティを吹き込むための緊密な取材の時間も含まれています。
「アオタケ」の愉快な住人たちが、「箱根駅伝」に挑戦する。ともすれば、荒唐無稽なファンタジーになってしまうストーリーですが、そこにしっかりしたリアリティを与えているのが、「タイム」です。駅伝に出るためには、記録会で5000mを17分以内で走らなければなりません。17分の意味するところは何か。それを表現することが、小説のリアリティの源泉となっているのです。
陸上では、選手の出すタイムが厳正な競技の基準となります。著者は、記録会、予選、そして本選としっかりとした時間を描くことによってこの小説に真のリアリティを書き込んでいきます。それは、まさに6年間をかけた作者の強いこだわりだったのではないでしょうか。
そして、ワンダーは、この小説が競技の「タイム」ではなく、「タイム」を語りながらも人にとって最も大切なものを描いているところに他なりません。
この小説を読みながら、心には何度も熱い想いが込み上げてきました。そして、読み終わったときの感激は他では味わえない新鮮な感動でした。皆さんも、是非この小説で熱い想いを堪能してみてはいかがでしょうか。この感動は、まさに「読まなきゃ損、損」です。
良い小説を読んだときの幸せはなにものにも代えられません。
それでは、皆さんお元気で、またお会いします。
今回も最後までお付き合いありがとうございます。 
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その意味で笑ってしまうレヴューでした。まさか本の紹介を受けながら箱根駅伝の知識まで得られるとは思いませんでした(笑)人生楽しみさんのレヴューの真髄を見た気がしましたわ。
ご訪問&コメント有難うございます。
この小説、本当に面白かったです。これからも感動満点の本があれば高得点でご紹介ください。「推薦」を楽しみにしております。
ところで、毎回長いブログとなりますが、暇のあるときにはまたお越しください。
それでは、またそちらにも遊びに行きます!!