こんにちは。
野田総理は今週G8でフランスの新しい大統領オランド氏と首脳会談を行うそうです。欧州危機が世界経済全体の株安の原因になっているのは間違いありませんが、日本の場合、そればかりとは言えないのではないでしょうか。
先週、日本テレビの「ゼロ」で、この数ヶ月の日本の株価下落率はアメリカや欧州に比べて最も大きいと報じていました。もちろん、相対的な円高も要因のひとつですが、世界の投資家たちは「何もできない日本」を無視し始めていることが真の要因だと思います。
「決められない政治からの脱却」、「政治生命を懸けた社会保障と税の一体改革」と野田総理の掲げるメッセージは当を得ていると思います。にもかかわらず、寄せ集め所帯の民主党を含めて、無責任な政治家たちが目の前の権勢保持や思惑のために足をひっぱり合い、日本のヴィジョンや課題をすり合わせることを明らかに拒んでいます。進まない!
マスコミ各社も垂れ流しのように世論調査の結果を伝えて、支持率がすべての国民の声のように錯覚させていますが、質問項目や電話の時間帯、さらには無作為の電話による調査は明らかに一部の世論にしか過ぎません。
日本の未来を、目の前しか見ない政治家と志のないマスコミ、「世論」という一部の意見が真っ暗にしている、という意見は間違っているでしょうか。日本が危ない!!
ところで、今週は中世フランス、ヴァロア朝8代目の王ルイ12世が起こした王妃との離婚訴訟を舞台とする弁護士の人生を描いた裁判小説を読んでいました。日本人の描く中世パリとフランス人の物語はみごとに血肉の通った人間劇で、その面白さは抜群でした。
「王妃の離婚」(佐藤賢一著 集英社文庫 2002年)
【キリスト教法典の辣腕弁護士】
時は1498年、フランスでは暴君であったルイ11世のあとを継いだシャルル8世が急逝すると直系径男子がいなかったため、いとこのルイ12世が王位を継ぎました。ルイ12世は幼少からオルレアン公ルイと呼ばれ、暴君といわれたルイ11世からの命によってその娘、ジャンヌ・ド・フランスと14歳にして結婚しました。
時はジャンヌ=ダルクで有名なイギリスとの100年戦争が終了して40年余り、フランスは王権のもとに中央集権を進めており、ルイ12世は王位を継承すると、前王から始まった「イタリア戦争」によって領土拡大を進めている最中でした。
さらにルイ12世は、王位継承直後に前王の王妃であったブルターニュ公アンヌとの再婚を目論見ます。再婚すれば、労せずにブルターニュ地方を自らの版図に組み込むことができるのです。しかし、キリスト教カトリック教徒は重婚はもちろん、離婚することも認められていません。
ルイ12世は、この再婚のために22年間夫婦であったジャンヌとの離婚訴訟を起こしたのです。当時の結婚はキリスト教カトリック教愛の下、ローマ教皇の指揮下にある境界が裁判所の役目を果たしており、ローマ法庁の枢機卿や司教が判事を勤めていました。
キリスト教は「離婚」を認めていません。では、再婚のために何が必要か。それは、ローマ教会によって、現在の結婚が結婚した当時に遡って無効であったことを認定してもらうしかありません。そして、王妃ジャンヌを被告とした「結婚無効」を立証する裁判が開廷したのです。
そして、その裁判を傍聴していたのが、本編の主人公フランソワ・ペトゥーラスその人でした。
ナントの地で地方教区弁護士を勤めているフランソワは、かつて自分を苦しめたルイ11世の娘「醜女のジャンヌ」が裁判で負けて王妃でなくなる姿を確かめるためにアンボワース教会でこの裁判を傍聴していたのです。
【作家佐藤賢一さんの実力】
中世のフランス。日本人がその教会法廷を舞台にこんなに面白い小説が書けるのか。
作者の佐藤賢一氏は、東北大学の大学院で西洋史を研究し、その専門性の高い歴史知識を駆使して数々の名作を世に出している屈指の小説家です。1993年25歳にして最初の小説「ジャガーになった男」を発表。ヨーロッパに渡った日本の武士の姿を描いて、みごとに第6回小説すばる新人賞を受賞しています。
そこから、毎年中世から近代にかけてのヨーロッパを舞台とした小説を発表し、1999年に発表したこの「王妃の離婚」で第121回直木賞を受賞しています。近年では、日本やアメリカの歴史小説も手がけていますが、現在注目を集めているのはこれまでの歴史小説の集大成となる「小説フランス革命」です。
2008年から書き始められたこの大が歴史小説は第1巻「革命のライオン」から第4巻「議会の迷走」までの4冊で第一部が完結し、第二部へと突入しています。全12巻にわたるというその壮大な大河小説は氏の集大成として読書界の注目を集めています。
フランスの歴史小説というと小難しく歴史背景や歴史文化を語っていると思われがちですが、佐藤氏の小説はまさに人間ドラマです。中世のフランス地方の風物を背景としながら、そこに生きる人間たちの信念や矜持、教会権力、王権と庶民の姿を生き生きと描いており、小説の王道を歩んでいます。
【裁判劇のスリルとサスペンス】
主人公フランソワは若き日にカルチェ・ラタンで当時最高の知性を誇る天才として自己を確立し、未来に向かって突き進んでいたのです。当時、彼には心から愛していた一人の女性がいました。ベリンダ・オブ・カニンガムは快活で華やいだ16歳の魅力あふれる女性で、フランソワを深く愛し、二人はセーヌ川岸、サント・ジュヌヴィエーブ通りの安下宿で同棲生活を送っていました。
しかし、ルイ11世の王権に反骨を見せたフランソワは、その暴君の逆鱗に触れてパリから追放されてしまいます。その追放のとき、ベリンダを伴ってパリから逃げようとしたフランソワでしたが、あえなくルイ11世の親衛隊につかまってしまい、最愛のベリンダと生き別れてしまします。
ルイ11世の娘ジャンヌと王ルイ12世の離婚訴訟は、その生き別れとなった事件から30数年の後に始まった裁判劇だったのです。
にくきルイ11世の娘の裁判を傍聴にきたフランソワはすでに40歳を超えていましたが、そこでかつてカルチェ・ラタンで知的論争を交わした後輩ジョルジウ・メスキと再開します。ジョルジュはパリ大学の大学生寮の副監舎という要職に就き、3人の法学生を連れてきていました。
そこで繰り広げられるカルチェ・ラタンの英雄フランソワの伝説と、王妃ジャンヌVSルイ12世の法廷論争をめぐるカトリック法典の法律論争でわれわれは一気に小説世界へと引きこまれていくのです。
法廷に出廷した王妃ジャンヌは、原告である権力者ルイ12世の権威に恐れをなす証人たちの寝返りにあい、苦境に立たされています。その中で、ただ一人離婚を拒み抵抗を続ける王妃の姿。法廷で証言する王妃の答えは、検事側の弁論をことごとく拒否する気丈なものでした。
当時の教会法廷は、カトリック法典であるカノン法の定めに基づいてすべての質問と回答、そして弁論はラテン語で行うことになっています。その法廷劇はスリリングです。
王妃ジャンヌはもちろんラテン語が話せるわけはありません。
気丈に証言台にあがる王妃に向かい、原告側の検事は冷たく言い放ちます。
「(答えは)端的に『クレド、ウェル、ノン・クレド(はい、か、いいえ)で答えてください。』と言い、「完全な婚姻」が不成立であったことを証言させようとあびせられる質問に対して、王妃ジャンヌは真摯に答えていきます。
その答えは、「ノン・クレド」、「ノン・クレド」。検察側から論点が次々に提示されますが、王妃の答えは、凛とした良く通る声ですべてに「ノン・クレド」が繰り返されていきます。すべてを否定する予想を超えた展開に、満員の法廷は騒然となっていきます。
そして、その否定の連続に業を煮やした原告検事は、ついに最後の手段として伝家の宝刀をスルリと抜きました。
「完全な婚姻の成立」とは、キリスト教で認められた子孫を残すため夫婦にのみ正式に認められる行為、つまり、王と王妃の間に男女の営みがあったのか、なかったのかが最後の論点となったのです。そこで、検察側が被告に求めたのは、「処女検査」でした。
原告側はこの恥辱にまみれる検査を突きつけることで、王妃に裁判での負けを認めさせる戦略に出たのです。仮に王妃が検査を受け入れたとしても、検査をする医師や立会いの検事たちは全員がルイ12世の息のかかった人間たちであり、検査の結果は如何にでもでっちあげることができます。その卑劣な手段は完璧に見えました。
いよいよ進退窮まった王妃ジャンヌ。王妃は最後の手段に出ます。それは、かつてカルチェ・ラタンに知と勇気の伝説を残したナントの弁護士フランソワ・ペトゥーラスに弁護を依頼することだったのです。
はたして弁護士フランソワは、王妃ジャンヌの弁護を引き受け、訴訟を逆転勝利へと導くことができるのか。
小説は、次から次へと多彩な人間関係をつむいでいき、息もつかせぬ展開でわれわれをその小説世界へとぐいぐい引き込んでいきます。
逆転の秘策となる証人、婚姻の立会い者である失踪した医師コッシュを発見すべくカルチェ・ラタンに向かうフランソワたちとそれを阻止しようとする検事側のサスペンスに満ちた攻防、暗殺者に付けねらわれるフランソワたち。生き別れとなった最愛の恋人ベランダの行方は。さらに登場したもうひとりのフランソワお明かす秘密とは。
小説は、最後の大どんでん返しにむかって突き進んでいきます。
保守本流の小説の面白さが、この本には詰まっています。人間にとって「知性と愛」はどんな意味を持っているのか、人間にとって生きることの意味は何なのか。大げさに言えば、そうしたことの意味がこの小説に潜んでいるといっても過言ではありません。
小説好きのあなた。まだ読んでいないあなたはラッキーです。気持ちの良い初夏の宵にぜひともこの小説を堪能してください。ただし、男女の下ネタも頻繁に出てきますので、そこにはご注意ください。
それでは、良い小説を読んだ満足感の余韻に浸りつつ本日はこれで失礼します。
季節は暑さを増してきますが、皆さんお元気でお過ごしください。また、お会いします。
今回も最後までお付き合いありがとうございます。
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